登山ちゃんねる

前方に遠ざかっていく爆音に「ほっ…」としながら車のスピード上げようすると、

「アホが事故ったか？」

そう思いながら、事故に巻き込まれないよう慎重に車を進めると、
道路上に転倒している人の姿とひしゃげたガードレールが見えた。

放置する訳にもいかず、ハザードランプを点けて車を止め、
人影…若い男…の元に近寄って行くと、
体を胎児のように丸めた姿勢で何かブツブツ呟いている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」

「何謝ってんだ？」と思いながらも、男に「おい、大丈夫か？」と声を掛けるが、

頭を打ったり、怪我をしてはどうかと考えたので、男の体に触る事も出来ず、
「おい！　怪我してねぇか！！」と大きな声を上げると、
男はパッと目を見開いて俺の方を見た。

結局「足が痛くて動かせない」と男が言うので、携帯電話で救急車を呼び、
（１１９番には男に現在地を聞いて場所を説明した）
救急車が来るまでに３０分程掛かるという事なので、
それまの間、男の側についていてやる事になった。

ただ待っているのも暇だったので、煙草を吸いながら男に声を掛ける事にした。

「俺が来た時、なんで謝ってたの？」と尋ねると、

「事故起こして謝るぐらいなら、変な運転しなきゃいいじゃん、危ないし」
男が何も言わないので、更に「大丈夫か？」って声を掛けると、

要領を得ない男の回答に「違うって何が？」と更に促すと、
男はようやく謝っていた理由をボソボソと話し始めた。

・俺の車を追い抜いてから、調子に乗ってスピード出していると、

・そのまま車道から外れそうになったので、

・衝撃と痛みに呻いていると「おい！」と声を掛けられて目を開けると、

・髭面のおさっさんが男の事睨みながら「うるさい…」と言い、

・次に声を掛けられて目を開けたら、俺がいた事。


俺は二本目の吸殻を携帯灰皿に突っ込みながら、
「次がないって言われたんなら、そうならないようすりゃいいだろ」

溜め息を吐き出して何気なく山林の方を見ると、

俺はビビって「勘弁してください」って思いながら頭を下げた。
頭を上げて再び木陰の方を見た時には、人影はいなくなっていた。