471: 名無しさん 2005/08/08(月) 19:17:57 ID:0cYmXmVC0
白い幟
友人の話。
里帰りした時のこと。
のどかだなぁ、とのんびり眺めていた彼は、やがて奇妙な引っ掛かりを覚える。
その日は風がほとんどないというのに、幟は見たところ強風に吹かれているかの
ように真横になびいているのだ。
あそこだけ風が違うのか?
彼曰く、まるで意思を持っているような動きだったという。
近寄ろうかどうしようか迷っていると、今度はかなり離れた竿竹に飛び移る。
幟のなびき方から判断すると、明らかに風上に位置する竿だった。
そこまで確認した時点で、彼は来た道を真っ直ぐ引き返した。
後で実家の者に聞くと、案山子ならともかく、あんな所に幟なんか立てないよと
言われたそうだ。
友人の話。
里帰りした時のこと。
近くの山中にある棚田を散歩していると、白い幟が風に棚引いているのが見えた。
のどかだなぁ、とのんびり眺めていた彼は、やがて奇妙な引っ掛かりを覚える。
その日は風がほとんどないというのに、幟は見たところ強風に吹かれているかの
ように真横になびいているのだ。
あそこだけ風が違うのか?
遠くから見ているうち、幟はひょいと近くの竿竹に乗り移った。
彼曰く、まるで意思を持っているような動きだったという。
近寄ろうかどうしようか迷っていると、今度はかなり離れた竿竹に飛び移る。
幟のなびき方から判断すると、明らかに風上に位置する竿だった。
そこまで確認した時点で、彼は来た道を真っ直ぐ引き返した。
後で実家の者に聞くと、案山子ならともかく、あんな所に幟なんか立てないよと
言われたそうだ。
472: 名無しさん 2005/08/08(月) 19:18:36 ID:0cYmXmVC0
天狗さん
同僚の話。
毎年夏になると、嫁方の実家でバーベキューをするのだという。
彼が専ら焼く専門になっているらしい。
その年も軍手と火箸を装備して、家族サービスに精を出していたそうだ。
肉を焼く手を一寸休めて、汗を拭きつつ缶ビールを喉に流し込んでいると。
慌てて石が投げられてきた背後を見やったが、人っ子一人見当たらない。
そちらには狭い休耕田があって、それを越えたらもう暗い山の中だ。
首を傾げながら庭の家族たちに目を戻す。
思わず火箸を構えて「誰だ!?」と叫ぶ。
流石に今回は家族も気がついた。皆が山に向かって集まってくる。
義母が「あっ忘れてた」と声を上げたのはそのすぐ後だった。
顔中を疑問符にしている彼に構わず、義母はそのまま田の端まで進み、紙皿を
そっと地べたに置いて頭を下げた。
「天狗さんに御裾分けを忘れてたわ。失敬失敬」
庭に帰ってきた義母は、ごく普通に言ってのけた。
彼と息子さんは目を丸くしていたが、嫁さんは「もう忘れっぽいんだから」と
これまた平然と流したそうだ。
彼は少し頭を抱えたくなった。息子は凄いやと喜んでいた。
とは言え、実家側の者は他に変わったことをする訳でもない。
ちなみに御裾分けは毎回、炭火を落とす頃には綺麗に失くなっているそうだ。
同僚の話。
毎年夏になると、嫁方の実家でバーベキューをするのだという。
彼が専ら焼く専門になっているらしい。
その年も軍手と火箸を装備して、家族サービスに精を出していたそうだ。
肉を焼く手を一寸休めて、汗を拭きつつ缶ビールを喉に流し込んでいると。
彼の背中目掛けて、パラパラっと小石が飛んできた。
慌てて石が投げられてきた背後を見やったが、人っ子一人見当たらない。
そちらには狭い休耕田があって、それを越えたらもう暗い山の中だ。
首を傾げながら庭の家族たちに目を戻す。
と次の瞬間、バララっ!と先より激しく石礫が投げ付けられた。
思わず火箸を構えて「誰だ!?」と叫ぶ。
流石に今回は家族も気がついた。皆が山に向かって集まってくる。
義母が「あっ忘れてた」と声を上げたのはそのすぐ後だった。
すぐに紙皿に焼けた肉と野菜を少々載せて、おまけに漬物と御握りを添える。
顔中を疑問符にしている彼に構わず、義母はそのまま田の端まで進み、紙皿を
そっと地べたに置いて頭を下げた。
「天狗さんに御裾分けを忘れてたわ。失敬失敬」
庭に帰ってきた義母は、ごく普通に言ってのけた。
彼と息子さんは目を丸くしていたが、嫁さんは「もう忘れっぽいんだから」と
これまた平然と流したそうだ。
彼は少し頭を抱えたくなった。息子は凄いやと喜んでいた。
とは言え、実家側の者は他に変わったことをする訳でもない。
今では彼も自分から御裾分けを用意するようになったという。
「あれ以来、石は飛んでこないよ。まぁ天狗を見たこともないけどな」
ちなみに御裾分けは毎回、炭火を落とす頃には綺麗に失くなっているそうだ。
473: 名無しさん 2005/08/08(月) 19:20:15 ID:0cYmXmVC0
バツさま
知り合いの話。
林道を車で流している時のこと。
いきなり何かに激突し、車が横転した。
何だ、何にぶつかった? ぶつかる物なんてなかったぞ!?
幸いにも怪我はない。必死でドアを押し開け、外に這い出る。
しかし解せないことに、林道にはひっくり返った彼の車以外何も見えない。
途方に暮れていると、呼吸音のような音が耳に入った。
ふごー ふごー
音の位置を特定しようとしている彼の前で、地面の落ち葉がぐっと凹んだ。
まるで、転がっていた重たい何かが、身を起こしたかのように。
動けない彼をまったく無視して、凹みは林の奥へ、ふごふごと去って行った。
何とか里まで降りて、助けを求める。
車を回収しに行く途中「さてはお前、バツさまを跳ねたな」と言われた。
バツというのは旱魃の魃のことらしく、所謂旱神(ひでりがみ)のことらしい。
「こりゃ、今年は雨風がおかしいぞ」
「前回は確か不作になっちまったっけか」
聞くとかなり前、落とし穴にバツさまが嵌まってしまったことがあったという。
それから秋の収穫が終わるまで、彼は何となく肩身が狭かったという。
それ以来彼は、林道では決してスピードを出さないよう心掛けている。
山の不思議: 飛騨の山小屋から
知り合いの話。
林道を車で流している時のこと。
いきなり何かに激突し、車が横転した。
何だ、何にぶつかった? ぶつかる物なんてなかったぞ!?
幸いにも怪我はない。必死でドアを押し開け、外に這い出る。
車の前面は、鹿や猪でも跳ねた時のようにベッコリと潰れていた。
しかし解せないことに、林道にはひっくり返った彼の車以外何も見えない。
途方に暮れていると、呼吸音のような音が耳に入った。
ふごー ふごー
音の位置を特定しようとしている彼の前で、地面の落ち葉がぐっと凹んだ。
まるで、転がっていた重たい何かが、身を起こしたかのように。
動けない彼をまったく無視して、凹みは林の奥へ、ふごふごと去って行った。
何とか里まで降りて、助けを求める。
車を回収しに行く途中「さてはお前、バツさまを跳ねたな」と言われた。
バツというのは旱魃の魃のことらしく、所謂旱神(ひでりがみ)のことらしい。
「こりゃ、今年は雨風がおかしいぞ」
「前回は確か不作になっちまったっけか」
聞くとかなり前、落とし穴にバツさまが嵌まってしまったことがあったという。
バツを止めたせいか、その年は暴風雨が非常に多く、結果不作だったのだと。
幸い大きな天候不順もなく、不作でない出来だったので、ホッとしたのだそうだ。
それ以来彼は、林道では決してスピードを出さないよう心掛けている。
山の不思議: 飛騨の山小屋から
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