オベリスク

619: 名無しさん 2005/07/02(土) 13:56:11 ID:UkTCqCym0
今は昔。
頃は初夏。5月に南アルプス鳳凰山へ行った時の事。

桃色2年に上がったばかりの頃、隣のクラスで山岳部の梶がやって来た。
青色3年の時の同級生で、ある事件がきっかけで友達になったヤツだ。

「おい、5月の連休ヒマだったら、一緒に南アの鳳凰山行かないか?ちょっと宅配便の
バイトすりゃアゴ・足代ロハで行けるぞ」

夢のような話だ。地蔵岳のオベリスクの美しさは話に聞いている。「行く」と即答。
が、甘い話には裏がある。

夜叉神峠登山口に着いた俺たちを待っていたのは“歩荷”だった。もう既に本職の
歩荷さんと大学生のバイトの人たちが、手際よく俺たちの分も荷造してくれている。

「か~じ~、おまえ宅配便って言ったよな?」

「ああ、山小屋までな。おまえ山好きだろ?」

「か~じ~、俺が山岳部でなくてハイカーだって知ってるよな?」

一体この荷物、何キロいや何十キロ有るんだ?顔が引き攣る。合羽と着替、あと少々の
物しか持った事のない俺に、これが背負えるのか?

「心配すんなって。ま、40キロ弱、いつもの俺らの荷物2個分ぐらいだな。そうだ、
女の子一人背負ってるって思やあ、軽いもんだろ?」

「バカヤロー!女の子てのはな、ぷにぷにっとして、やーらかくて、背負うもんじゃ
なくて抱くもんだ!」

「はいはい、後は上の小屋で聞いてやるよ」

しれっとした顔で梶はそう言い、手近の荷物を背負った。
俺もここまで来たからにはどうしようもない。梶に倣って荷物を背負う。

40キロは半端じゃない。思わず呻き声が出る。くっそぉ、おのれェ…

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620: 名無しさん 2005/07/02(土) 13:56:47 ID:UkTCqCym0
正直、荷を担ぐのがこんなに大変だとは思っていなかった。我身一つのバランスを保つ
のとまるっきり勝手が違う。歩くだけなのに、わずかな揺らぎが大きな修正を伴う。

当然、休憩も立ったまましかとれない。座ったら、今度は立つのが大変だろうから。

夜叉神峠小屋から大崖頭山まで、ひたすら登りが続くこの道で、俺たちは可憐な花に
目を留める余裕もなく歯を食いしばって歩き続けた。本来なら、登山口から小屋まで
1時間、小屋から大崖頭山まで1時間10分か15分もあれば行けるだろうと思うのに、
そこに来るまでに3時間余りも費やしてしまう。

本職さんと大学生の人たちはずんずん先へ行っている。俺たちは急いでついて来なくて
いいから、確実に運ぶように言われていたので、自分たちのペースで上がって行く。

それでも、杖立峠から苺平まではわりと緩やかな道が続くから、俺たちも少しは慣れて
余裕が出来てきた。この辺りの原生林は深く、特に今の季節の深い碧玉からカワセミの
羽根色まで変化する木々の緑色は、肩に食込む荷物の重さをしばし忘れさせてくれる。

そんな時、木立の間から男の大声が聞えた。

おォオ、らァア、よォオおおぅ…
(何だ、あれ?)梶と二人、思わず立ち止まって顔を見合わせる。

それから少し間があって、ず、ざざざざざざぁっん…と大木の倒れるような音がした。

伐採かと思ったが、チェーンソーの音のような物は聞かなかったし、第一ここらで木を
切って運んで行けるような道や場所もない。辺りはそれっきり、静まりかえっている。

これが“天狗倒し”とか“古杣”と言うものだろうか?
ま、いいか。熊でも猪でもなさそうだし。ノーテンキ野郎二人、また歩き始める。

今夜の泊りは南御室小屋。荷下ろし出来るのがこんなにほっとする事だとはなあ。

部屋へ上がる前に、黄昏の山々を見ながら二人で一服吸い付ける。うむ、最高!

621: 名無しさん 2005/07/02(土) 13:57:30 ID:UkTCqCym0
昨夜、ストレッチはちゃんとやったが、やっぱり体が痛い。

梶が寄越した起き抜けの一服で少ししゃんとする。(家だったら確実に箒で殴られる)

今日も快晴。荷は少し減ったが、筋肉痛で相殺されて、やっぱり俺たちはみんなより
遅れてしまう。2時間余りかかって何とか薬師小屋へ到着。ここで荷物が半減し、ぐんと
楽になる。親切なオバチャンにもらった飴を嘗めつつ、薬師岳を越え、白砂の道を白根
3山を眺めながら歩いていると、鳳凰山の最高峰観音岳が見えてきた。

俺は目標が見えると踏ん張りやすい性格らしい。まして、観音岳まで登ってしまえば、
地蔵岳のオベリスクが見えてくる。俺は槍ヶ岳のてっぺんとかオベリスクとか、ああいう
とんがった系のものがわりと好きだから、ついつい気合が入ってしまう。

観音岳から地蔵岳へは岩場が続くので、いっそう足が鈍くなるが、まあ勘弁してもらおう。

自分で転倒して自損するのはしょうがないが、ここまで無事に運んだ荷物に傷なんざ絶対
付けたくない。

途中、鳳凰小屋への近道があったのでそちらを選ぶ。あと一歩だ。

無事、鳳凰小屋へ到着して荷物を下ろせた時は、本当にほっとした。あー、最後まで
がんばれて良かった。梶も俺も最後の一服。この2日で二人とも1箱吸い切った。

622: 名無しさん 2005/07/02(土) 13:58:35 ID:UkTCqCym0
歩荷さんと大学生の人たちはこれから燕頭山を通り、御座石鉱泉の方へ下りるという。

俺たちはせっかくだからオベリスクのよく見える辺りまで付合い、また引返してドンドコ
沢から青木鉱泉の方へ抜ける道を選んだ。山岳部OBの藤原さんが、鉱泉の付近にログ
ハウスを建て、今夜は俺たちをそこへ泊めてくれる事になっていた。

沢にはいくつもの滝がある。足場も少々悪い。おまけに筋肉痛の体。これで坂を下るのは
結構きつい。普段の俺たちなら何とかこなしただろうが、今日は二人ともよく転ける。

白糸の滝を過ぎた辺りで、俺たちはまたあの男の叫び声に遭遇した。
おォオ、らァア、よォオおおぅ…

それから少し間があって、ず、ざざざざざざぁっん…と大木の倒れるような音。

しかし、どこにもそんな様子はない。

「…やっこさん、俺たちになんか言いたい事でもあんのかな?」

梶が冷静に首を捻る。わからん、と俺は首を傾げる。

煙草もトイレも所定の場所で済ませた。唾を吐き散らした覚えもない。金品をちょろまか
したりなんかもしていない。嫌がる他人を無理矢理いたした覚えもない。

俺たちは山で悪さはしていない。

何であんなのが聞えたのか。いまだにわからない。
16才と17才の山好きが体験した不思議な話である。

636: 名無しさん 2005/07/03(日) 03:34:12 ID:LpTWfMKY0
>>619
N.Wさん乙です。私も十数年前の6月頃、大体同じコースで
鳳凰三山を縦走した事があります。

人の叫び声は聞こえませんでしたが、鳥とも獣ともつかない
不思議な生き物の鳴声を耳にしました。

「ウーワォーワォーウーワー」といった感じの鳴声で
遠くのサイレンに独特の抑揚を付けたような雰囲気もありました。

鳥というよりは大型の哺乳類の鳴声のようにも思えました。
その後野鳥の鳴声のCDを聞いてみてあっさり正体が判明しました。

アオバトというハトの仲間でした。
まあまあ美しい鳥ですが、ごく平凡な姿にちょっと拍子抜けしました。

謎の生物の鳴声という事で思い出に残しておいた方が良かったかもしれないですね。

658: 名無しさん 2005/07/04(月) 17:03:54 ID:K63p5e/S0
>>619
よく行くあたりの話だから、風景が目に見えるようだったよ。
あの稜線は本当に気持ちいい。

そういえば前に薬師の小屋で会ったボッカのお姉さんは、細身のすごい美人だったな。

ごつい男が大荷物を背負ってるのは、すごいねえと思うだけだが、その体でその荷物を、と改めて驚いた。

スレに沿った話題を振ると、俺は観音岳の頂上で必ず見事なブロッケンをみる。

五回くらい登って百発百中。それも、鳳凰三山で百日過ごすと言う写真家が飛び上がって喜ぶような大物ばかり。

不吉だと思う人も多いだろうが、山が歓迎してくれてるみたいで俺はうれしい。
他にも富士山でみたり常念でみたり、他の人よりブロッケン遭遇率は高いのかもしれない。

659: 名無しさん 2005/07/04(月) 17:36:02 ID:BNXKNwOv0
>>658サマ。
それは素敵な事ですね、いいなぁ。
アルフに愛されてる証拠みたいで、うらやましいです。
妖精と妖怪は一字違いで大違い。
ちょっと凹んでしまいます、俺…

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引用元:http://toro.5ch.net/test/read.cgi/occult/1118674955/

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