715: 名無しさん 2005/07/07(木) 23:25:16 ID:8RPHEzdr0
源為朝の坐像は、お堂の中で窮屈そうにしていた。
坐像とはいえ、高さ2メートルほどはあろうかという大きさなので、
あまり立派とはいえないお堂では、たしかに小さ過ぎるだろう。
その中、色鮮やかな衣装と甲冑を身に着け、ぎょろりと目を剥いた
為朝は、不思議な威厳に満ちている。
その集落を訪れるたび、大きな源為朝象を眺めに行く。
その身丈に見合っただけの弓矢があり、刀もある。
すぐ近くには、甲斐武田氏ゆかりの八幡宮があり、
すぐ脇の山は、その山頂に城跡がある。
時に、為朝は付近を見回るという話を聞いた。
がちゃがちゃと鳴る甲冑の音で、どこを見回っているのか
分かるのだという。
これまでに、為朝の見回りで住民の命が奪われた事がある。
胸から背中にかけ、太さ20ミリほどの穴が貫通して死亡している。
為朝の弓矢なら、ぴたり一致する直径で、屋内で死亡していた場合、
屋根に同様の穴が開いている。
矢(のようなもの)が発射されたのは、城跡のある山頂の
方角からだと警察は鑑定しているが、毎度それ以上、捜査は進まない。
左の肩口から胃袋へ向け、一直線に斬り込まれて死亡した者もいる。
そうした事件の後、集落では窃盗事件や、変質者によると
思われるいたずら、あるいは神隠しが絶えるという。
坐像とはいえ、高さ2メートルほどはあろうかという大きさなので、
あまり立派とはいえないお堂では、たしかに小さ過ぎるだろう。
その中、色鮮やかな衣装と甲冑を身に着け、ぎょろりと目を剥いた
為朝は、不思議な威厳に満ちている。
その集落を訪れるたび、大きな源為朝象を眺めに行く。
その身丈に見合っただけの弓矢があり、刀もある。
すぐ近くには、甲斐武田氏ゆかりの八幡宮があり、
すぐ脇の山は、その山頂に城跡がある。
時に、為朝は付近を見回るという話を聞いた。
がちゃがちゃと鳴る甲冑の音で、どこを見回っているのか
分かるのだという。
これまでに、為朝の見回りで住民の命が奪われた事がある。
胸から背中にかけ、太さ20ミリほどの穴が貫通して死亡している。
為朝の弓矢なら、ぴたり一致する直径で、屋内で死亡していた場合、
屋根に同様の穴が開いている。
矢(のようなもの)が発射されたのは、城跡のある山頂の
方角からだと警察は鑑定しているが、毎度それ以上、捜査は進まない。
左の肩口から胃袋へ向け、一直線に斬り込まれて死亡した者もいる。
そうした事件の後、集落では窃盗事件や、変質者によると
思われるいたずら、あるいは神隠しが絶えるという。
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716: 名無しさん 2005/07/07(木) 23:25:57 ID:8RPHEzdr0
朝3時に歩き始め、城跡のある山頂を目指した。
そこから地図に記されている、あるかなしかの道を辿って
集落を囲む山々を歩き、夕方には下山する計画だ。
山自体はどうということはない。
地図の等高線などから判断すると、八ヶ岳がきれいに見えそうな
ピークがある。
細かな砂利が敷かれ、かたく締まった歩きやすい道路を
歩いていると、その音がした。
後ろから近付いて来る。
がちゃがちゃ
がちゃがちゃ
木と金属が触れ合い、こすれる音に混じる大きな足音。
ずしゃ
ずしゃ
近付いて来る。
音が背中に貼り付き、つかの間、歩調が俺と重なった。
ふいごのような、熱い呼吸を頭の上に感じた。
追い越された。
ゆったりした歩調が、遠ざかってゆく。
歩幅が広いのか、あっという間に遠ざかる。
聞こえなくなった。
為朝さんの見回りか、ぼんやり思った。
お疲れさん。
そこから地図に記されている、あるかなしかの道を辿って
集落を囲む山々を歩き、夕方には下山する計画だ。
山自体はどうということはない。
地図の等高線などから判断すると、八ヶ岳がきれいに見えそうな
ピークがある。
細かな砂利が敷かれ、かたく締まった歩きやすい道路を
歩いていると、その音がした。
後ろから近付いて来る。
がちゃがちゃ
がちゃがちゃ
木と金属が触れ合い、こすれる音に混じる大きな足音。
ずしゃ
ずしゃ
近付いて来る。
音が背中に貼り付き、つかの間、歩調が俺と重なった。
ふいごのような、熱い呼吸を頭の上に感じた。
追い越された。
ゆったりした歩調が、遠ざかってゆく。
歩幅が広いのか、あっという間に遠ざかる。
聞こえなくなった。
為朝さんの見回りか、ぼんやり思った。
お疲れさん。
717: 名無しさん 2005/07/07(木) 23:26:36 ID:8RPHEzdr0
山頂まであと僅かというところ、空気が唸った。
木立の上、木の葉がざわっと揺れ、枝が鳴った。
突風が吹き抜けたような塩梅だった。
やがて、今度は前から、音が来る。
がちゃがちゃがちゃ
互いにわき目もふらず、すれ違い、離れた。
実は、恐怖した。
左の肩口から袈裟がけに斬られやしないかと、怯えた。
つまらない万引きや、女子更衣室を覗いた経験くらいは、ある。
階段から、同級生の女の子を突き落とした事も思い出した。
まさかとは思いつつ、やはり怯えた。
何が基準なのか、俺に分かるわけがない。
夕方まで歩き、下山した。
集落では、多くのパトカーが回転灯を光らせていた。
新編 山小屋主人の炉端話
木立の上、木の葉がざわっと揺れ、枝が鳴った。
突風が吹き抜けたような塩梅だった。
やがて、今度は前から、音が来る。
がちゃがちゃがちゃ
互いにわき目もふらず、すれ違い、離れた。
実は、恐怖した。
左の肩口から袈裟がけに斬られやしないかと、怯えた。
つまらない万引きや、女子更衣室を覗いた経験くらいは、ある。
階段から、同級生の女の子を突き落とした事も思い出した。
まさかとは思いつつ、やはり怯えた。
何が基準なのか、俺に分かるわけがない。
夕方まで歩き、下山した。
集落では、多くのパトカーが回転灯を光らせていた。
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