597: 名無しさん 2005/11/20(日) 10:01:34 ID:WahbDJhc0
剥製
狩猟をし、山菜を売り、剥製を作り、民芸品も作る。
本人によれば、山に寄生しているようなものだという。
ずっと昔、遭難者の遺体を何体か、剥製の製作技術を生かして
加工し、日持ちするようにしたことがあるという。
普通は医者がすべきことだが、遺体を山から搬出するのに
数日かかるような辺境では、彼のような技術者にでも頼む他ない。
正式には、どこからの依頼だったか聞いたはずだが、泥酔していた
俺の記憶は、あちこちで飛んでしまっている。
たいていは損傷箇所を修復し、人に見せられる状態まで復元し、
簡単な防腐処理を施すだけだったが、時には例外もあった。
警察から、彼の手元に若い女性の遺体が届けられた時のことだ。
防腐処理の準備をしていると、遺体の父親が訪ねてきた。
遺体は実家まで持ち帰り、きちんとした葬式をした上で焼くことに
したと告げられ、間に合わせの防腐処理でなく、もっときちんと
加工して欲しいと要求された。
時間はいくらかかっても構わない。
綺麗な姿で家に帰したいという言葉には説得力があった。
要望を取り入れると、ほとんど剥製と変わらなくなる。
そのあたりで、妙だな、とは無論思った。
狩猟をし、山菜を売り、剥製を作り、民芸品も作る。
本人によれば、山に寄生しているようなものだという。
とんでもない山奥に、そんな男がいた。
ずっと昔、遭難者の遺体を何体か、剥製の製作技術を生かして
加工し、日持ちするようにしたことがあるという。
普通は医者がすべきことだが、遺体を山から搬出するのに
数日かかるような辺境では、彼のような技術者にでも頼む他ない。
正式には、どこからの依頼だったか聞いたはずだが、泥酔していた
俺の記憶は、あちこちで飛んでしまっている。
たいていは損傷箇所を修復し、人に見せられる状態まで復元し、
簡単な防腐処理を施すだけだったが、時には例外もあった。
警察から、彼の手元に若い女性の遺体が届けられた時のことだ。
防腐処理の準備をしていると、遺体の父親が訪ねてきた。
遺体は実家まで持ち帰り、きちんとした葬式をした上で焼くことに
したと告げられ、間に合わせの防腐処理でなく、もっときちんと
加工して欲しいと要求された。
時間はいくらかかっても構わない。
綺麗な姿で家に帰したいという言葉には説得力があった。
要望を取り入れると、ほとんど剥製と変わらなくなる。
そのあたりで、妙だな、とは無論思った。
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598: 名無しさん 2005/11/20(日) 10:03:06 ID:WahbDJhc0
承諾し、生まれて初めての人間の剥製を手がけることになった。
うまくいかない部分もあったが、父親はその出来栄えに満足し、相当な
額の謝礼を置き、遺体とともに帰った。
実は、剥製を作っている最中、目の前にいる娘の遺体を山の広場で
焼いたという話を彼は聞いていた。
何を焼いたのか知らないが、娘の遺体は、確かに彼の手元にあった。
多額の謝礼には、口止め料も含まれているのだろうと彼は思った。
こんな山奥では、一生かかっても使い切れそうもない金額だった。
遺体の父親はその後、何度も訪ねてきた。
子供を失った親が、どうしても子供を焼く気になれず・・・
といった理由で、ドライアイス漬けの遺体を持ち込むこともあった。
まずいことになったと気付いたのは、人間の剥製を、すでに何体か
作ってからだった。
彼が手がけた剥製が、特殊な販売ルートで売買されていることも
聞かされ、どうやって手に入れたか知れないような、若い女性の
遺体ばかりが持ち込まれるようになった。
最後の依頼になった女性の遺体を持ち込んだ後、ある地方を大災害が
襲い、その「父親」は、それきり来なくなった。
剥製は完成したが、引き取り手はないままだった。
彼は今も山で暮らしている。
無論、人間の剥製を依頼しに来る者はいない。
それでも彼は、人間の剥製を作りたくなることがあるのだという。
うまくいかない部分もあったが、父親はその出来栄えに満足し、相当な
額の謝礼を置き、遺体とともに帰った。
実は、剥製を作っている最中、目の前にいる娘の遺体を山の広場で
焼いたという話を彼は聞いていた。
何を焼いたのか知らないが、娘の遺体は、確かに彼の手元にあった。
多額の謝礼には、口止め料も含まれているのだろうと彼は思った。
こんな山奥では、一生かかっても使い切れそうもない金額だった。
遺体の父親はその後、何度も訪ねてきた。
子供を失った親が、どうしても子供を焼く気になれず・・・
といった理由で、ドライアイス漬けの遺体を持ち込むこともあった。
まずいことになったと気付いたのは、人間の剥製を、すでに何体か
作ってからだった。
彼が手がけた剥製が、特殊な販売ルートで売買されていることも
聞かされ、どうやって手に入れたか知れないような、若い女性の
遺体ばかりが持ち込まれるようになった。
最後の依頼になった女性の遺体を持ち込んだ後、ある地方を大災害が
襲い、その「父親」は、それきり来なくなった。
剥製は完成したが、引き取り手はないままだった。
彼は今も山で暮らしている。
無論、人間の剥製を依頼しに来る者はいない。
それでも彼は、人間の剥製を作りたくなることがあるのだという。
629: 名無しさん 2005/11/21(月) 13:13:22 ID:3sZqfdqF0
桜の話
爺様曰く
「山中に一本だけポツンとある桜の下で夜を明かしては行けない。
桜は弱い。たまたま山中に芽吹いたとしても長らえることはできない。
にも関わらず、周りの木々に負けず一本だけで生きる桜というのは
山の怪の持ち物、もしくは桜そのものが怪なのだ。
そんなモノの下で眠りこければ、桜に喰われ滋養にされてしまう。」
ここから自分の話。
花見の季節、友人に「穴場スポットがある。」と言われて誘われたのが
そんな桜の下でした。
山中のちょっと開けた場所に、たった一本だけ満開の花をつける桜は
美しいと同時にちょっと異様でもありました。
何事もなく酒宴を楽しみましたが、帰りには一応根元に未開封の
ワンカップを置いて「お騒がせしました。」と礼を述べてから山を下りました。
残念(?)ながら、特に不思議な体験はありませんでしたw
爺様曰く
「山中に一本だけポツンとある桜の下で夜を明かしては行けない。
桜は弱い。たまたま山中に芽吹いたとしても長らえることはできない。
にも関わらず、周りの木々に負けず一本だけで生きる桜というのは
山の怪の持ち物、もしくは桜そのものが怪なのだ。
そんなモノの下で眠りこければ、桜に喰われ滋養にされてしまう。」
ここから自分の話。
花見の季節、友人に「穴場スポットがある。」と言われて誘われたのが
そんな桜の下でした。
山中のちょっと開けた場所に、たった一本だけ満開の花をつける桜は
美しいと同時にちょっと異様でもありました。
何事もなく酒宴を楽しみましたが、帰りには一応根元に未開封の
ワンカップを置いて「お騒がせしました。」と礼を述べてから山を下りました。
残念(?)ながら、特に不思議な体験はありませんでしたw
646: 名無しさん 2005/11/21(月) 17:12:59 ID:3sZqfdqF0
雨音
爺様の話。
山仕事中に大雨に降られ
カッパを羽織って作業を続けた爺様。
フードに当たる猛烈な雨音しか聞こえない中
黙々と下生えを刈っていると、ふと音が消えた。
不信に思って顔を上げると、相変わらず雨粒は
勢いよく顔に当たるのに音が一切聞こえない。
「こりゃあ耳がイカレたか?」
と呟いたら、その自分の声はハッキリ聞こえたそうな。
試しに持っていた鎌の刃を指で弾くと
キンッと小さな金属音が確かに聞こえる。
それなのに雨音だけがまったく耳に響かない。
奇妙に静まりかえった山の中で、爺様は心細くなり
震えながら「勘弁してくれ。」と小さく呟くと
それに答えたのか、唐突にバチバチッ!とフードを叩く雨音が戻ったという。
「狐狸の類にからかわれたんだろうな。」
と当時を思いだして語る爺様であった。
爺様の話。
山仕事中に大雨に降られ
カッパを羽織って作業を続けた爺様。
フードに当たる猛烈な雨音しか聞こえない中
黙々と下生えを刈っていると、ふと音が消えた。
不信に思って顔を上げると、相変わらず雨粒は
勢いよく顔に当たるのに音が一切聞こえない。
「こりゃあ耳がイカレたか?」
と呟いたら、その自分の声はハッキリ聞こえたそうな。
試しに持っていた鎌の刃を指で弾くと
キンッと小さな金属音が確かに聞こえる。
それなのに雨音だけがまったく耳に響かない。
奇妙に静まりかえった山の中で、爺様は心細くなり
震えながら「勘弁してくれ。」と小さく呟くと
それに答えたのか、唐突にバチバチッ!とフードを叩く雨音が戻ったという。
「狐狸の類にからかわれたんだろうな。」
と当時を思いだして語る爺様であった。
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桜が物の怪封じに植えられたことを知らないのか。