647: 名無しさん 2005/08/14(日) 00:26:23 ID:Zgeokclg0
ダイバカ
知り合いの話。
幼い頃、山で薪拾いの手伝いをしていた時。
しゃがんで一心不乱に薪を選んでいると、カサカサという音が聞こえてきた。
息苦しさを覚え顔を上げてみると、目の前に小さな旋風が起こっていた。
灰色の砂が渦を巻いて吹き上がっている。
旋風自体は見慣れていたが、それには何やら嫌な感じを受けたという。
旋風は急に速度を上げて、ずずっと彼に迫り始めた。
思わず薪を投げ棄て、助けを求めて逃げ出した。
叫び声を聞いて飛んできた祖父は、旋風を認めて険しい顔になった。
彼を後ろに庇うとずらりと山刀を抜き、躊躇なく渦の真中に切りつける。
しゅんっ、と音を立てて、旋風は消滅した。
大きく息を吐いた祖父さんは、彼の頭を撫でながらこう言った。
「あの旋風はダイバカといってな、馬を殺す風だ。
あれが鬣に触れると、馬は居っ立って、口から血泡ぁ吹いて死んじまう。
昔は馬を飼ってた馬子も多かったからな、この辺りにもよく出たもんだ」
不安になった彼に「人は取り殺さないから、まぁ大丈夫だろう」と祖父さんは
告げて、そのまま薪拾いを続けさせたそうだ。
知り合いの話。
幼い頃、山で薪拾いの手伝いをしていた時。
しゃがんで一心不乱に薪を選んでいると、カサカサという音が聞こえてきた。
息苦しさを覚え顔を上げてみると、目の前に小さな旋風が起こっていた。
灰色の砂が渦を巻いて吹き上がっている。
旋風自体は見慣れていたが、それには何やら嫌な感じを受けたという。
旋風は急に速度を上げて、ずずっと彼に迫り始めた。
思わず薪を投げ棄て、助けを求めて逃げ出した。
叫び声を聞いて飛んできた祖父は、旋風を認めて険しい顔になった。
彼を後ろに庇うとずらりと山刀を抜き、躊躇なく渦の真中に切りつける。
しゅんっ、と音を立てて、旋風は消滅した。
大きく息を吐いた祖父さんは、彼の頭を撫でながらこう言った。
「あの旋風はダイバカといってな、馬を殺す風だ。
あれが鬣に触れると、馬は居っ立って、口から血泡ぁ吹いて死んじまう。
昔は馬を飼ってた馬子も多かったからな、この辺りにもよく出たもんだ」
不安になった彼に「人は取り殺さないから、まぁ大丈夫だろう」と祖父さんは
告げて、そのまま薪拾いを続けさせたそうだ。
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648: 名無しさん 2005/08/14(日) 00:28:08 ID:Zgeokclg0
アナジ
後輩の話。
以前、山奥の親戚の家を訪れた時のこと。
そこは地方の旧家で、一風変わった古物が沢山あったのだという。
彼はその手の物に目がない。早速、蔵の中を見せてもらった。
年季の入った骨董を感心しながら巡るうち、奇妙な物を見つけた。
黒くて少し大き目の風車。奇妙なのはその材質だった。
薄く叩いてはいるが、どう見ても鉄で出来ていた。
錆がごつごつと浮いており、かなり強く息を吹きかけても回らない。
彼がそれを弄りまわしていると、お祖母さんがお茶を持ってきてくれた。
手の中にある風車を見て「それはアナジを知らせる印だよ」と教えてくれる。
アナジとは専ら冬に吹く強風で、良くない物らしい。
これが吹くとその数日後に、決まって大火が起こったのだという。
「昔の家は木造ばかりだからね、こんな山奥で火事になると大変だったよ」
こんな鉄の風車を回す風って、どんな風なんだろうな。
彼はぼんやりとそう思った。
更に聞くと、最近アナジは滅多に吹かなくなったそうだ。
「温暖化って言うのかしら、そいつの影響かもしれないねぇ」
お祖母さんはそう言って、一人うんうんと頷いていた。
後輩の話。
以前、山奥の親戚の家を訪れた時のこと。
そこは地方の旧家で、一風変わった古物が沢山あったのだという。
彼はその手の物に目がない。早速、蔵の中を見せてもらった。
年季の入った骨董を感心しながら巡るうち、奇妙な物を見つけた。
黒くて少し大き目の風車。奇妙なのはその材質だった。
薄く叩いてはいるが、どう見ても鉄で出来ていた。
錆がごつごつと浮いており、かなり強く息を吹きかけても回らない。
彼がそれを弄りまわしていると、お祖母さんがお茶を持ってきてくれた。
手の中にある風車を見て「それはアナジを知らせる印だよ」と教えてくれる。
アナジとは専ら冬に吹く強風で、良くない物らしい。
これが吹くとその数日後に、決まって大火が起こったのだという。
「昔の家は木造ばかりだからね、こんな山奥で火事になると大変だったよ」
こんな鉄の風車を回す風って、どんな風なんだろうな。
彼はぼんやりとそう思った。
更に聞くと、最近アナジは滅多に吹かなくなったそうだ。
「温暖化って言うのかしら、そいつの影響かもしれないねぇ」
お祖母さんはそう言って、一人うんうんと頷いていた。
649: 名無しさん 2005/08/14(日) 00:31:20 ID:Zgeokclg0
山ミサキ
友人の話。
山道整備のボランティアをしていた時のことだ。
邪魔になる張り出し枝を切っていると、不意に生暖かい風に包まれた。
途端に背筋がきゅっと冷たくなる。何だこの風は?
鋸を取り落として身体を抱きしめた次の間、目の前を何かが横切った。
長い髪を振り乱した青白い生首が、風の中に舞っていた。
嫌になるくらいに無表情だったという。
あっという間に首は流れて消えた。周りの空気が正常に戻る。
しかし、身体に取り付いた悪寒は去らない。
青い顔をして詰め所に戻ると、今見た物を告げた。
誰も信じてくれなかったが、責任者格のお爺さんは一人こう言ってくれた。
「悪い風に行き合っちまったな。今日はもう降りろ」
そして「まず熱が出るから大事にしてな」と付け加えられた。
その言葉通り、彼はその夜から二日間ほど寝込んでしまったという。
後で聞いたところ、件の風は地元では山ミサキと呼ばれているらしい。
出くわすと大熱を発し、運が悪いと死んでしまうこともあるのだと。
そんな目に合ったにも拘わらず、彼は今でもそこのボランティアに毎年参加して
いるそうだ。「ま、死ななかったしな」そう言って頭を掻く。
ただその山に入る前に必ず、登山口で線香を上げるようになったそうだ。
友人の話。
山道整備のボランティアをしていた時のことだ。
邪魔になる張り出し枝を切っていると、不意に生暖かい風に包まれた。
途端に背筋がきゅっと冷たくなる。何だこの風は?
鋸を取り落として身体を抱きしめた次の間、目の前を何かが横切った。
長い髪を振り乱した青白い生首が、風の中に舞っていた。
嫌になるくらいに無表情だったという。
あっという間に首は流れて消えた。周りの空気が正常に戻る。
しかし、身体に取り付いた悪寒は去らない。
青い顔をして詰め所に戻ると、今見た物を告げた。
誰も信じてくれなかったが、責任者格のお爺さんは一人こう言ってくれた。
「悪い風に行き合っちまったな。今日はもう降りろ」
そして「まず熱が出るから大事にしてな」と付け加えられた。
その言葉通り、彼はその夜から二日間ほど寝込んでしまったという。
後で聞いたところ、件の風は地元では山ミサキと呼ばれているらしい。
出くわすと大熱を発し、運が悪いと死んでしまうこともあるのだと。
そんな目に合ったにも拘わらず、彼は今でもそこのボランティアに毎年参加して
いるそうだ。「ま、死ななかったしな」そう言って頭を掻く。
ただその山に入る前に必ず、登山口で線香を上げるようになったそうだ。
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